環境文化研修センターにて「森は海の恋人」という演題で畠山重篤さんの講演会が開かれました。
畠山重篤さんは宮城県の気仙沼湾で牡蠣や帆立貝の養殖業を営む漁民です。海の環境を守るにはそこに注ぎ込む川、そして上流の森を大切ににしなければならないことに気付き、1988年より気仙沼湾に注ぐ大川上流の室根山に広葉樹による森作りを始めました。同時に環境教育として上流域の子供たちを海に招き体験学習をさせています。今回の講演会で畠山さんは次のように語りました。 |
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私たち漁民が室根村の子供たちを海に招いた時のことです。まずは帆立貝の耳つり作業をしてもらいました。帆立貝の稚貝の耳(貝の隙間)にドリルで穴を開け、ロープに15cm間隔に付けられているテグスに結ぶ作業です。それを船に乗せて筏まで運び、稚貝の結ばれたロープを筏に吊るしていきます。そこで「これは餌も肥料も農薬も、何もやらなくても自然に大きくなるんだよ」と説明します。農家の子供が多いだけに「農業の大変さからしたらどろぼうみたいな仕事だね」と言う子もいます。そこで牡蠣や帆立貝が大きくなる理由を説明するため、プランクトンネットでプランクトンをすくいます。「誰か飲んでみないか」と誘うと、「俺が飲んでみる」という子がでてきます。「どんな味だ」と聞くと「キュウリみたいだ」などと答えます。植物性プランクトンが多いから青臭いのです。皆それを聞いて安心して飲みます。その後顕微鏡で皆にその正体を見せます。そこにはぎざぎざの怪物みたいのやらいろんな形をしたプランクトンがうようよいて「げー、さっきこんなの飲んだのか」と言って大騒ぎになります。そこでこのプランクトンがどのようにして育つか説明し、皆が川を汚すとそれをプランクトンが取り込み、それをまた牡蠣や帆立貝が取り込んでしまうことを話します。例えば皆が庭でビニールのゴミを焼くと、牡蠣や帆立貝がダイオキシンで汚染されてしまうということなどです。子供たちは家に帰り、海で経験したり聞いてきたことについてそれぞれの親に話します。それが室根村全体の意識を変えることとなり、農薬や化学肥料をたっぷり使った農業から、最近は有機農業へと変ってきたのです。
私たちは牡蠣の養殖には川の水が大切であり、川の安定には上流の森林が大切であると経験的に感じて、大川上流の室根山に広葉樹の植林を始めたのですが、このような運動をしていくにも科学的な裏付があると心強いです。そんな時、北海道大学水産学部で海洋化学を担当する松永勝彦教授との出会いがありました。教授は森と海のつながりについて次のように説明してくれました。
植物はまず鉄分を体内に取り込まないと、栄養素の一つである窒素を吸収することができません。しかし酸素と結び付いた酸化鉄の状態では粒子が大きすぎて細胞膜を通過できず、吸収することができません。腐葉土の中では酸化鉄が酸素を奪われて鉄イオンとなります。そこで酸素と結び付く前に吸収する必要があるのですが、腐葉土の中には同時にフルボ酸という物質ができ、それが鉄イオンと結び付いてフルボ酸鉄となります。フルボ酸鉄は植物が直接吸収することができ、しかも酸素と結び付かない安定した形なので、川を下って海に注ぎ込み、植物性プランクトンや海藻の成育にとって非常に重要な働きをすることになります。つまり豊かな森ではたくさんの腐葉土が作られ、その中でたくさんのフルボ酸鉄ができ、豊かな海を育むことにつながるのです。
オホーツク海にやってくる流氷はアムール川の水が凍ったものです。北海道のオホーツク海沿岸がサケ・マス・タラ・カニなどの豊かな漁場となっているのは、外蒙古、中国東北部、シベリア南東部のアムール川流域の森が豊かな御蔭です。また東支那海に面する長崎の海が豊かな漁場となっているのは、中国大陸中央部の揚子江流域の森が豊かな御蔭です。日本の漁場を守るには、大陸の森を守っていく必要があるということです。
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