拝啓 日頃は屋久島のためにいろいろとご尽力いただきありがとうございます。

 この度、屋久島救助犬協会を設立する運びとなりました。

 2000年夏、山岳遭難者捜索のために屋久島の山に救助犬が入りました。私はこの救助犬グループのガイドをしたご縁で、屋久島初の救助犬の養成を始めることになりました。犬の嗅覚は人間の100万倍から1億倍と言われています。数十年もの間埋められていた遺体でも犬は発見出来ます。私は屋久島のような山岳地帯に向いた犬として甲斐犬を選びました。救助犬の訓練に於ては、犬を訓練すると共にハンドラー(犬を操る人)の訓練が非常に重要です。特に山岳捜索に於ては体力と共に高度な技術を要することもあり、日頃から鍛錬しておく必要があるでしょう。

 救助犬についてご理解を深めていただきたく、簡単に説明させていただきたいと思います。

 救助犬の歴史は古く、西暦962年、ベルナール(バーナード)という修道士がスイス、イタリア国境付近の峠に遭難者の救助を目的とした修道院を建立し、犬を訓練して雪山での多くの遭難者を助けたのが始まりだと言われています。この峠(現在のグラン・サン・ベルナール峠=標高2469メートル)の辺りでは極寒、豪雪、雪崩等により多くの遭難者を出しました。16世紀に修道院が焼失し、それまでの記録は失われましたが、その後、峠にトンネルが出来る1964年までの約300年間、代々育成されてきた救助犬たちは、少なくとも2,500人の遭難者を救助したと伝えられています。遭難者救助は修道士から地元民に伝えられ、スイスの山岳ガイドの基礎となりました。そのため、スイスではサン・ベルナール(セント・バーナード)をガイドの神様と呼んでいます。

 なかでも歴史に残る有名な救助犬は、1814年に旅行者が猛獣と間違えて射殺したバリーという名の犬でしょう。バリーは生涯で40人以上の遭難者を救助しました。その後バリーにちなみ、この犬種はバリー・ハウンドという名称で呼ばれてきましたが、1828年にセント・バーナード・ドッグと改名され現在に至ります。現在のセント・バーナード・ドッグは殆ど長毛種ですが、雪の中で活躍するには短毛種のほうが良いので、救助犬には短毛種が使われました。

 救助犬に犬種や血統の制約はありませんが、作業をする意欲の基となる好奇心、作業を続ける集中力、他人や他の犬に攻撃を仕掛けない友好性などが求められます。このような性格は生まれつきのものだけでなく、飼主の育て方によっても変ってきます。現在救助犬として使われている犬種には、ジャーマン・シェパード・ドッグ、ラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリーバー等がいます。

 最近では阪神大震災、台湾中部大地震、アメリカでの国際テロ事件等で救助犬が行方不明者を捜索し、一躍有名になりました。日本でも災害に備え、阪神大震災以降、各地で救助犬関係の団体が結成されました。

 救助犬が捜索を的確に行うには日頃の訓練が重要です。犬が人を捜す事を理解したならそれをいつ、どこででも出来るようにしなければなりません。犬は初めての環境、体験には対応できません。遭難(災害)現場で想定される足場の悪さ、悪天候、水などを考えながら日頃の訓練を積み重ねることがとても重要です。私たちが毎日決りきった仕事をして給料を貰っているように、犬も毎日基本訓練を積み重ねてご褒美を貰います。毎日同じ事を繰り返し訓練することが、救助犬にとっては非常に重要なのです。毎日繰り返さなければ、いざという時役に立ちません。

【救助犬と警察犬の違い】
《警察犬》……個人の臭いを覚えさせ、その臭いをたどりながら追跡し進む。足跡線上をたどりながら進む。
《救助犬》……不特定多数の人の臭いを遭難(災害)現場から察知し捜し出す。またわずかな物音にも反応する。風等で流れてくる浮遊臭を追って行きながら、一点を捜し当てる。
 以上のように警察犬と救助犬の鼻の使い方や動作が根本的に異なります。ですから、警察犬は災害現場では間に合いません。また犯罪などの現場では、違う方法で救助犬を使うことができます。

 参考までに救助犬のサイトをいくつかご紹介しておきます。

全国災害救助犬協会連合会本部/NPO法人災害救助犬協会富山
http://www.geocities.jp/drdsakaidog/

NPO法人災害救助犬静岡
http://saigai.hp.infoseek.co.jp/

 実際に捜索に関わるには警察、消防等との連携が必要になってきます。

 東京消防庁では、災害救助犬を育成している社団法人ジャパンケンネルクラブ(東京都)、災害救助犬協会富山(富山県)、日本災害救助犬協会(東京都)、日本レスキュー協会(大阪府)の四つの災害救助犬団体と「災害救助犬の出動に関する協定」を締結しています。詳しくは下記のサイトをご覧ください。

東京消防庁 災害救助犬組織との協定締結
〜救助活動に消防部隊と災害救助犬の連携を強化〜
http://www.tfd.metro.tokyo.jp/inf/h11/news07.htm

 屋久島救助犬協会を設立するにあたり規約を作成しました。

 救助犬関係の団体では、寄付をもらいやすくするためにNPO法人の認可を取っているところが多いですが、屋久島ではまだその段階ではないと思いますので、組織の規則などは必要最少限のものにしておきました。

 ただし今後屋久島において救助犬の訓練志望者が増える可能性も考え、本会の細則には「訓練の必要上、屋久島の国立公園内、森林生態系保護地域内、世界自然遺産地域内に立ち入る場合には中級訓練犬以上とし、環境への影響を最少限にするよう十分に配慮するものとする。」という条項も加えておきました。これは、呼んでも来ないような犬をやたらにそれらの地域内に連れて行って、自然破壊や他人への迷惑になるような行為を防ぐことが目的です。

 今回、屋久島救助犬協会を設立するに至ったのは、救助犬の訓練について全国的なつながりをもち、技術向上と親睦を図ることが大きな目的です。救助犬を育成するには多大な費用を必要としますが、私たちはすべて自費および会費でそれを賄っています。そのところをご理解いただき、ご協力いただければ幸いです。

 何かご意見がありましたらお寄せください。

敬具

屋久島救助犬協会事務所 木下 大然
屋久島町安房2627-133
TEL/FAX 0997-46-3714
携帯電話 090-9580-7862
URL http://yakushima.org/rescudog.htm
E-mail daizen@yakushima.org

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