救助犬の歴史

 フランスにほど近いスイス、イタリア国境付近に位置するアルプス山脈の峠の周辺は、冬季には氷点下30度にもなる極寒、最大25メートルもの豪雪、更に雪崩等により遭難者が跡を絶ちませんでした。西暦1050年(一説によると962年)、フランスのアヌシー湖(Lac d'Annecy)付近の荘園領主の後継者であったベルナール・ドゥ・マントン(Bernard de Menthon)は、その峠を通る旅人たちの遭難を防ぎ、また遭難者を救助するために、オスピス・サン・ニコラ(Hospice Saint Nicolas = 聖ニコラオス宿坊)を創建しました。彼の没後、その名を記念して宿坊はオスピス・デュ・グラン・サン・ベルナール(Hospice du Grand Saint Bernard = 偉大な聖人ベルナールの宿坊)と改名され、峠もグラン・サン・ベルナール峠(Col du Grand Saint Bernard)と称するようになります。宿坊では修道士が遭難者の救助に当たっていましたが、いつの頃からか犬を使うようになりました。この犬たちはローマ帝国軍の軍用犬としてアルプスに移入された、チベタン・マスティフを祖先とするモロシア犬(Molossus Dog)の子孫だと考えられています。16世紀に宿坊が全焼して大部分の記録が失われたため、犬を救助に使い始めた時期は不明ですが、その後宿坊は再建され、峠の下に全長5.8キロメートルのグラン・サン・ベルナール・トンネルが開通する1964年までの間、代々育成されてきた救助犬たちは、少なくとも2,500人の遭難者を救助したと伝えられています。修道士から地元民に伝えられた遭難者救助のノウハウは山岳ガイドの基礎となったので、スイスではグラン・サン・ベルナールを“ガイドの神様”と称えています。

 歴史に残る有名な救助犬の1頭は1800年生れのバリー(Barry)という名の犬で、14年の生涯で40人以上の遭難者を救助したと伝えられ、その亡骸は剥製になって現在もベルン自然史博物館に展示されています(博物館サイトでのバリーの紹介)。他にも31人救助したリヨン、23人救助したタークなど、優れた救助犬の話が修道士から伝えられています。その後バリーにちなみ、この犬種はバリー・ハウンド(Barry Hound)と呼ばれたこともありましたが、一般にはホスピス・ドッグ(Hospice Dog)、セント・ゴザード・ドッグ(Saint Gothard Dog)、アルパイン・マスティフ(Alpine Mastiff)などと呼ばれていました。宿坊の犬たちは1815年頃と1830年頃の2回、ジステンパーや雪崩によって激減したため、1815年〜1880年の間にニューファンドランド・ドッグ、グレート・デン等の血を入れて存続を図りました。そのため現在ではポピュラーとなった長毛種が出現したのですが、雪の中で活躍するには短毛種のほうが雪がまとわり付かなくて良いので、雪山での救助犬には短毛種が使われました。1833年にはダニエル・ウィルソンというイギリスの作家により、代々救助犬を育成してきた宿坊とその創建者の名を称えて英語読みしたセント・バーナード・ドッグ(Saint Bernard Dog)と名付けられ、1880年からはこの犬種の正式名称となって現在に至ります。1973年にはアメリカで、燃え盛る家の中から4歳と5歳の少女を次々にくわえて運び出し救助した、当時わずか1歳2ヶ月のブドバイザーという名のセント・バーナード・ドッグが一躍ヒーローとなりました。このことを受け、同年11月11日には東京消防庁が特別救助隊のシンボルマークにセント・バーナード・ドッグのデザインを採用し救助服の腕章とするなど、この犬種は広く親しまれてきました。同庁職員を主体とする財団法人東京消防協会では、セント・バーナード・ドッグをデザインしたファイアーグッズをいろいろと用意しており、誰でも購入することができます。

 近年では雪山だけでなく様々な方面に救助犬の活躍の場が広がり、それぞれの現場に適した多種多様な犬種を使役するようになりました。そのため救助犬には犬種や血統の制約を設けていませんが、作業をする意欲の基となる好奇心、作業を続ける集中力、他人や他の犬に攻撃を仕掛けない友好性などが求められます。このような性格は生れ付きのものだけでなく、日常の訓練によっても変わってきます。現在救助犬として使われている犬種にはジャーマン・シェパード・ドッグ、ボクサー、ラブラドール・リトリーバー、甲斐犬、柴犬、ミニチュア・シュナウザー、ミニチュア・ダックスフント等がいます。

 日本では阪神・淡路大震災以降、災害に備えていくつもの救助犬関係の団体が結成され、東京消防庁等と救助犬の出動に関する協定を締結しています。また阪神・淡路大震災、トルコ大地震台湾中部大地震アメリカ同時多発テロ事件新潟県中越地震等で救助犬が活躍している様子はマスコミでも紹介され、多くの人の知るところとなりました。

屋久島救助犬協会トップページ