自給率を高めれば
過疎化防止と自然保全に
 森は原生林(自然林、天然林)、二次林、人工林(経済林)の三つの形態に分けられます。原生林は一度も人間が手を付けていない森、二次林は一度人間が切った後、自然の力によってよみがえった森、人工林は人間が切った後、スギ、ヒノキなど人間が利用するための木を植林した森です。スギやヒノキは根が浅く、落葉も少ないので保水力がありません。そのため大雨が降れば洪水、土砂崩れなどの原因になります。また日照りが続けば川が涸れて水不足になります。もちろん動物たちにとっても餌がないので生活することができません。その地域に元々あったいろいろな木々がバランスよく揃った森が、自然にとっても人間にとっても一番良いのです。

 屋久島では昭和30年代に林野庁の計画で里から標高数百メートルまでの照葉樹林が大量伐採されました。サルやシカたちはいったん山奥に逃れましたが、昭和40年代後半になると植林されたスギ林を伝って里まで下りてくるようになり、農作物に被害を与えるようになりました。それまではサルやシカの害は全くなかったと聞いています。また昭和50年代後半には海の海藻が殆ど消え、そこに産卵していたトビウオが来なくなってしまいました。豊かな森は豊かな海を作ります。森の養分をたっぷり含んだ水は川を下り、海に注ぎ込みます。豊かな森の栄養が海に入るとプランクトンが発生し、海藻が茂り、魚介類がたくさん住みつきます。

 最近ではスギ、ヒノキなど人間が利用するための木も含めて、より天然林に近い状態で生態系を維持し、経済的にも成り立っている林業が見直されつつあります。一本一本を太く育ててから切り出すので、密植しなくても経済的に成り立つのです。更に労働者や地元民の権利を守ることもできます。このように森林環境の保全に配慮しながら木材が生産されている森林に認証を与える、FSC(森林管理協議会)という国際的な機関があります。日本では三重県の速水林業や高知県の檮原町林業組合などがFSCの認証を取得しています。海外ではエストニアが東欧最大のFSC認証林保有国です。エストニアは国土が45,000平方キロメートル(日本の9分の1)しかない小国でありながら、その国土の約4分の1に当る10,630平方キロメートル(屋久島の21倍)もの広大な国有林がFSCで認証され、その中にはオオヤマネコ、オオカミ、コウノトリ、クマなどの貴重な野生生物もいて、豊かな生態系を維持しています。またイギリスの木材消費量の約5分の1を占める木材を取り扱っている100社近くの木材会社が認証木材の取引の促進に力を入れ、ドイツ、スウェーデン、フィンランドなど木材貿易をFSC認証林に限っている国もあることから、エストニアの木材は全て周辺国で適正に消費されています。

 日本の林業は輸入材の増加のため衰退の一途をたどっています。現在、国内の木材生産は僅か2割に過ぎません。地元のスギやヒノキをどんどん利用すること、それも家や建物だけでなく、土木にも生かしていくことが重要ではないでしょうか。それぞれの地域でそこにあるものを使うのが一番理に適っているはずです。農業においても同様です。種子島では昔からサトウキビを作ってきました。昔、種子島の農民は鹿児島で一番裕福だったそうです。しかし国が砂糖を自由化にしたために値が下がり、農民の所得も大幅に下がりました。米の自由化にしても同じことです。また森を破壊したために海に栄養がいかなくなり、プランクトンや海藻が減って魚が寄りつかなくなり、漁業までだめにしています。屋久島では現在、第一次産業による収益は6%、種子島でも12%にすぎません。若者が農業、漁業、林業をいやがり都会に出たがるのは、収入の保証がないからです。私たちは地域興しに知恵を集め、国は自給率を高めるよう充分な援助をするようにしていくことが大切ではないでしょうか。

 若者たちがそれぞれ自分の故郷で生活し、自給率を高めていけば、輸送も最低限ですみ、余計な開発も避けられることでしょう。

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